見えないものが、見えてくる。

 人工知能研究者の黒川伊保子さんによれば、「年齢を重ねれば人間の脳は生理学的には老化する。しかし装置としての脳は進化している」という。そう言えば、「年を重ねると、見えないものが見えてくる。物に込められた魂が見えてくる」とラジオで誰かが言っていたのを聞いたことがあります。これは脳の進化なのでしょうか。

 この話を畏友にしたところ、「そうだよ。俺なんか、寿司を食べていると荒海で働く漁師の姿が目に浮かぶ」と嘯(うそぶ)かれたことがあります。「人間の脳は生きている限り、進化し続ける。知識を身につければつけるほど、感性を磨けば磨くほど、物の見え方は違ってくる」とも。この時は畏友の話は、ほんとかなぁ、という程度でした。畏友は新聞と雑誌を毎日熟読しています。だから、ものすごく博学です。でも、体系的にものを学んだのであれば信頼できるが、そうでなければ、? です。

 しかし、先日トサミズキの花を見ていて、「物に込められた魂が見えてくる」は本当だと思いました。トサミズキは我が家の庭で一番先に花を咲かせます。黄色の五弁の花が穂状に5個〜6個枝に垂れ下がっています。葉が開く前に花が咲くというのが気に入っています。

 トサミズキは母が植えたものです。母の祖父は四国の高知県から八戸に移り住みました。母は祖父にたいそう可愛がられて育ったそうで、その思い出が故にトサミズキという名前が気に入ってたみたいです。母にとって、この花は祖父との思い出を引き寄せる「依代(ヨリシロ)」だったのでしょう。そして私にとってもトサミズキは亡き母との会話を思い出させる依代だと実感しました。「高知では桜の花が咲いているが、ここはまだ風が冷たいね。でもね、この黄色い花はもうすぐ春だと教えてくれている」、「ばあちゃん(私は子供が生まれてから母のことをこう呼んでいました)、四国に行ってみたいか? 」、「いや、こうやってハナミズキを毎年見れるだけで十分」。母は祖父(私にとっては曽祖父)との思い出を味わっているのが分かりました。

 ハナミズキに込められた母の魂。年齢を重ね、私にも母の魂が見えるようになってきました。